鮮からの密輸や密入国は発動機船を用いているらしいが、それは監視船の目をくぐるに必要な速力がいるための話で、まだ沿岸に監視の乏しかった終戦直後には大昔と変りのないアマの小舟でさかんに密輸や密入国が行われ、それで間に合ったのだ。別に監視のあるわけでもない大昔には、アマの小舟で易々と、また無限に入国して、諸方に定住し得たのは自然であろう。
遠く北鮮の高句麗には、南鮮と北九州北中国を結ぶような便利はないが、今日、密輸入密入国の一基地はウラジオストックに近い北鮮の羅津あたりにもあって、小舟によって潮流を利用したり、または潮流を利用して荷物を流す方法もあるという話であるが、荷物を流すのはとにかくとして、潮流を利用するというカンタンな航海法、もしくは出航後自然に潮流に乗ってしまったという航海の可能性は十二分に考えられるのである。
この潮流は季節によって異るかも知れないが、たとえば、裏日本の海辺に於ては太平洋戦争前から再々ウラジオストックの機雷の漂流に悩んでいたのであった。ウラジオのものらしい機雷が津軽海峡にまで漂流し、本土と北海道を結ぶレンラク船の航海にまで危険が起ったのは今年の話である。東京は
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