去に於てそうであったように、噴火といえば黒煙天に冲《ちゅう》するものだと思っていましたね。十何年か前にドイツのファンク博士というカメラマン兼映画カントクが来朝して、日本側では早川雪洲、原節子主演の「新しき土」とやらいう日独テイケイ映画をつくった。そのとき浅間山のバクハツ瞬間を撮そうというのでカメラをすえつけ、何人かの日本人の映写技師が何ヶ月もバクハツを待ってカメラにすがりついていたそうで、バクハツの瞬間にスイッチのボタン一ツ押すために大の男が何ヶ月もポカンと暮しているとは有為の男子に対する大侮辱デアル、と大そう怒っていましたね。なるほど定九郎のイノシシや仁木弾正のネズミよりもダラシがないような職業的劣等感にハンモンしたかも知れんな。第一キリがねえや。しかしキリがなくって、いつの日がバクハツだかワケが分らんところに役の意味があるのだが、日本では珍しくもないたかが浅間山のバクハツにすぎないのだし、命じるのは外国人のそう手腕卓抜とも思われぬ同業者にすぎないではないか。日本の男の子の面目まるつぶれというモンモンたる心事になやんだのはムリがない。自発的な仕事でないと、こういうバカなことはやれませ
前へ
次へ
全27ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング