大島の返事をきかせてくれましたね。こんなにカンタンに大島と通話できるとは知りませんでしたよ。大島ではバクハツらしいものは目下感じられません、という返事だとさ。ガッカリしましたね。こッちはすでに思いこんでいたのだから、キツネにつままれたように半信半疑ですよ。しかし、大島直々の御返事がそうなら、いかに信用したくなくとも仕方がないさ。
どうも寝ざめが悪いのさ。バクハツの実況を実見せずに大島を書くのが、まことに筆がすすまないのさ。どうせ書くからには、火口壁でバクハツにでくわし、熔岩に追っかけられてホウホウのていで逃げるようなあんまり利口な人のやらないことがしてみたいね。そういうことを賭けるのが、職業のタノシミというものですよ。すすまぬ筆をムリに動かしてる最中にバクハツ音をきいたから、即座に一人ぎめに思いこみ、にわかに勇みたち、空襲警報よりも慌てふためいて旅支度をととのえたね。バクハツにあらずと報知がきたときは、魂をぬかれたようなものさ。こういう意気ごみで出かけるときは、船酔いなんかしないものだね。拙者の文学のエネルギーはそのバカらしさで持ってるようなものさ。伊東から大島行の定期船は午前の八時
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