がにフカやマグロとは胴体の太さがちがうね。これで二トン半ぐらいはあるそうだ。もっとも私はむかし甚兵衛ザメ(エビスザメとも云う)というのを見たことがあった。これは頭の先端がサイヅチ式になっていて胴体の太さが鯨にまけない怪物であった。
 普通のキャッチャーボートは三百六十トンから四百トン、十四|哩《マイル》から十六哩の速力がでるそうだ。鯨の速力が十二哩から十六哩だそうだから、十六哩でるボートは大そう楽なゲームがたのしめるそうだね。ところがミンク相手の漁にはそんな本格的なボートはいらない。たった二十五トンか三十トンのボートでタクサンなのだ。ミンクという奴がいかに子供扱いされているかお分りであろう。その中でも特に小さい奴がとれたんだが、けっこう私はおどろいたね。とにかく胴廻りの太さが違うね。上へひきあげると大口あいてドロドロした舌をダラリとだしているが、タヌキのキンタマ八畳ジキというけれども、ミンクの舌でも私のネドコになるぐらい大きいや。それにドロドロの舌からもれる臭気かしら、ひどく鯨くさいな。私が戦争中閉口したのは、この臭気であった。ミンクの肉は美味だというし、サシミには特にうまいというが、
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