させるな。言葉は事実を正しく表現するために用いらるべきであろう。ゴザリスデゴザリス的な言葉から文化は育たない。ただ田舎風の策略が発達するだけである。伊達政宗的な言葉かも知れないね。
 仙台は奥の細道の地であるから、仙台の目貫《めぬ》きの通りの芭蕉の辻というのはそのインネンの地かと思ったら、これが大マチガイなんだそうだね。あの芭蕉には全然関係ないのだそうだ。政宗は密偵を用いることを好み、常時諸方にスパイをさしむけていたそうだ。彼の用いたスパイは山伏もしくは虚無僧であったという。その数あるスパイの中で最も腕のあるのが芭蕉という山伏だか虚無僧だかであったそうな。文字までそッくり俳諧の親玉と同じなんだね。彼は正確な情報を提供して数々の功をたて、政宗に深く愛され、厚く遇せられたが、その功に報いるために、年老いて隠居した芭蕉に、十字路に立派な邸をつくッて与え、その辻を芭蕉の辻とよぶに至ったという。もっとも名スパイ芭蕉氏は松尾芭蕉氏と同じように、そんな賑やかなところはイヤだと山奥へひッこんで出てこなかったということだ。しかし仙台藩では長く芭蕉の功を忘れず、無人の芭蕉邸が火で焼けると藩の費用で再建し、
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