物は通行を許されていない。日曜ともなれば、その賑いは、また格別だ。ところが、その日曜に、この遊楽道路に交通整理物々しく、ズラッと警官が中央に立って、右側通行、その厳格なこと、ちょッと左へよるとお巡りさんのケンツクをくう。自動車の通る道なら整理の必要もあるだろう。だいたい右側通行というのは、人間が車の対面を歩くことによって事故を少くすることができるだろうという考えによって編みだされた方法で、すべて交通整理は根が乗物と人間の交錯という困った事情から必然的に発生したものであろう。千日前は、自動車どころか、自転車も通りやしないナ。ここは人間の通行という用のみに便じる道ではなくて、道を歩くこと自体が遊びであり、あッちの店をのぞき、こッちの店へ色目をつかい、ノンビリ行楽するところである。その行楽まで規則でしばりつけ、働き蟻のように、また兵隊のように、整然と歩かせないと気がすまないのである。遊楽の盛り場ぐらいはウロウロと心のおもむくままに歩かせてはどうかね。大阪の人間は勝手に歩かせておくと、東京のメクラのように衝突してケンカして仕様がないのかなア。ちょッとお客様の目に見える表通りだけは兵隊を扱うよう
前へ 次へ
全51ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング