味から無意味へ駈けこんで行ぐ遁走ですよ。悲しいのです。これ以上に悲しい姿はありませんや。大阪人はファルスと共に実生活しつつある唯一の日本人ですよ。狂おしいまでに、あやつられていますね。身についた理にも、人情にも、金もうけにも、アキラメにも、言葉にも、郷土にも。
 女にも郷土はあるし、それは一面、男以上に郷土を持ちすぎているかも知れない。しかし、その責任[#「責任」に傍点]のようなものは持ちませんね。どこの国の女でも、女というものは、そういうものではないかな。運命は負うているが、運命の責任のようなものは、女は負うていませんや。
 女は自分の責任を負わず、自分の負うべき袋を負うて喘いでいる男が、ミジメで、イヤに見えるらしいや。実に憎むべきは女であるか。否、否。可愛いのです。最も憎むべきところを愛す以外に手がないという状態だ。どこの国の女でも、郷土の男を嫌いがちだが、別して大阪はその傾向が激しいかも知れん。それは男が多くの袋を負いすぎて、狂おしいまでに、あやつられすぎているせいかも知れん。
 しかし、大阪の御婦人方は面白いや。私と徳田君はいっぺん京家をでたことがあった。ほかの旅館を知ることが
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