い私製の言葉を発案愛用するような性癖があるからである。
 ところが、大阪は新世界のジャンジャン横丁を歩いたら、おどろいたね。ここはホルモン焼きの天国だよ。人々はホルモン焼きを餓鬼の如くにむさぼり食っているが、決して地獄ではない。数丁にわたるジャンジャン横丁全体がホルモン焼きの煙と匂いにつつまれ、どの店も立錐の余地もなく労働者がホルモン焼きの皿をかかえてムシャぶりついている。どの店の看板にもモツ焼きなどと本来の名はなく、ただハッキリとホルモン焼き。しかもどの労働者もヒジをはり顔を皿にくッつけて無念無想にムシャぶりついているのだ。みんな淀橋太郎である。煙りも匂いもムシャぶりつく人々の身構えも、すべて食慾を感じさせること夥しい。
 挑みかかり、ムシャぶりかかるような食い方は、いくら空腹の時でも、サシミだのスノモノなどを相手に人間はしないものである。ホルモン焼きのもつ必然的なものが確かにあるのだ。云うまでもなく、第一に美味なのである。私はモツを好まないが、支那やフランスでモツが肉以上に高価なことでもその美味が知られるが、一般に私の知人の食通連もモツに対しては特に愛着をもつようだ。次にその美味に
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