くとしで、どこかしらにゴールド・ラッシュ的山男人種のバラックが存在するにきまっている。いや、表通りにすらも。それが鉄筋コンクリでも、その内実はバラックなのである。そして、今までのバラック族が本建築族に出世する時には他の区域にバラック族が住みついて、永遠にバラックの絶えることがない町なのであろう。
バラックの心。それは一つの勇心ボツボツたる魂でもあるかも知れない。バラックへの郷愁。ボツボツたる勇心の流す涙かね。織田作の霊よ、安かれ。
どうも私はストリップだのジャンジャン横丁だのキャバレーだのと、ロクでもない大阪ばかり見物し、会見した人物といえばお嬢さんだけとは怪しからん、という抗議をなす人があるかも知れないが、これがどうも私のせいではないのである。
私も大阪のしかるべき代表的名士に三四会見を申込んだが、一応は承諾したのち、みんな用を構えて逃げられたのだから仕方がない。申し合せたように一応は承諾するところが、面白いな。結局巷談師安吾という奴は、どんなことを書くか分らん、というのが心配のタネであったのだろう。
要するに、会見に応じて悠々と現れて下さッたのは、お嬢さん方だけであった。そういう次第なのである。大阪のお嬢さん方は、巷談師安吾の如きにはビクともしないのである。どんな動物だか見てあげましょうというような軽い気持で、実に彼女らは天真ランマンですわ。大阪の実業家だの名士というのは、やっぱり二流だね。一流の魂があれば、巷談師ごときに怖れるところはなかろう。おそらく東京だったら、私が会見をもとめた政治家や実業家は悠々と会うかも知れんが、お嬢さん方の方は怖れをなすんじゃないかね。
また、大阪では、あやしい所を遍歴するたび、警察の人にまちがえられて、大いに困った。徳田君といっしょに裏町やテント張りのストリップやマーケットなどへ見物にでむくと、私服の案内で巡察にきた何かのように間違えられて、ストリップが突然着物をきて、全然ハダカにならなくなったりするのである。ポンビキなどゝいうものは、私のところへ寄りついたこともない。どうも外套をぬいで出かけなければならなくなった。今後は変装の必要があるかも知れん。
予定では、大阪といっしょに神戸もまわる筈であったが、時間がなくて、まわることができなかったのは残念でした。
底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房
1998(平成10)年12月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文藝春秋 第二九巻第五号」
1951(昭和26)年4月1日発行
初出:「文藝春秋 第二九巻第五号」
1951(昭和26)年4月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:深津辰男・美智子
2010年1月5日作成
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