と今のところ大騒ぎだが、イヤハヤ、馬鹿々々しく大きいね。そして大ゲサなアトラクションだが、飲ませるものときたら、ひどいね。ジンヒーズをたのんだら、ジンらしき香りがチョッピリ。二杯目をたのんだら、カルピスの中へチョッピリとジンをたらして持ってきた。カルピス・ジンというのは珍しい。しかし、ジンの方は分るか分らぬ程度に小量でカルピスがほぼ全部。おまけに高いのである。こういうところが押すな押すなの混雑だから、女の子が男の子を軽蔑するのはムリがないようなフシもあるね。便所へ立ったら、客用の便所は修理中使用禁止とあり、楽屋の便所を使う仕組みになっている。ダンサーの脱衣所の隣りである。
 キャバレーにはコリゴリして、バアをさがす。織田作ゆかりのコンドルというのを、まだその時は知らないから、とにかくカルピスジンではないピリリとした洋酒をのませる店を見つけようというので、ずいぶん歩いた。心斎橋や道頓堀界隈にはバアというものがないようだ。東京の飲んだくれは小料理屋で一パイのんでバアかなんかで洋酒で仕上げをするというのが普通のコースであるが、大阪はバアに代るのがキャバレーという訳でもない。カルピスジンでは仕上げになりませんや。
 大阪は食道楽だというが、現在の大阪はそうではないね。フグ料理は大阪では一般に普及した大衆的な食べ物だ。ジャンジャン横丁的なフグ料理屋すらあるのである。私が食べたのは第一流の店ではなかったかも知れないが、名の知れた店ではあるらしい。東京のフグ料理とは比較できない不味である。第一にフグの品質がわるいし、職人の腕もヘタだった。一般に普及しているもの、必ずしも美味ではないのである。街々には、まだ東京には復活しない甘栗があった。食べてみると、昔と同じのはあの焼いている匂いだけ。甘栗ではなくて、ユデ栗の皮だけが甘いだけの話だ。甘くっても皮は食えないな。
 大阪人は実質派であるけれども、味覚的な実質、審美的な実質まで届かずに、安値で一応味覚にかない満腹すれば足るという程度の実質派である傾きがある。だから大衆食物で高価なものは不味なのだろう。トコトンまで高価にして味覚専一にやれないからであろう。元々一番安いというもの、キツネウドンだのホルモン焼きのようなものが、実は一番うまいのかも知れない。大阪で一番美味を味っているのは、あまりゼイタクのできない人たちであるかも知れないのである。もっとも飛びきりゼイタクな料亭は、あるいはうまいのかも知れないな。
 例の三ツ寺の隣りに入口の小さいバアらしきものを見つけて飛びこんだら、これが中へはいると大そうな広さで、やっぱりバンドがドカドカやっているキャバレーだ。コンパという店名であった。大阪は妙なところで、メトロのようにバカバカしく華美な装飾を施したのがあると思うと、まるでミルクホールのように殺風景なのがあるのである。コンパの殺風景なこと。大きな店内に、植木鉢もなく広さの目立つこと夥しい。こういう殺風景なのは、とても東京では見かけることができない。しかし大阪には、こういう殺風景なのがタクサンあって、コンドルも殺風景だし、OKも殺風景だ。ゴタゴタとバカバカしく華美にやる店よりも、私には殺風景な店の方が気持がよい。バカバカしく派手な店は気心が知れなくて、つきあう気になれない。どうせカルピスジンのたぐいだろうと思われるからである。さすがに殺風景だけあって、コンパでは本式のジンヒーズをのませてくれた。
 檀君の案内で織田作ゆかりのコンドルというところへ行ったが、なんとなく、なつかしいや。しかし、この店などは東京で云うと、どういう種別にはいるのだろう。やっぱり、バアかね。バアとすれば、場末のバア。いかにも、そういう感じであった。北海道の山奥なんぞに、金鉱かなんぞが発見されて突如として人口二三万の町ができゴールド・ラッシュで山男の呑みッぷりがよろしいという時に、コンパというキャバレーや、コンドルというバアや、OKという喫茶店ができるような気がするな。それが北海道の山奥にはなくて、大阪の目貫きの街にあるんだね。するとつまり、大阪には北海道の山奥に住むのが然るべきようなゴールド・ラッシュ派の山男的存在がタムロしているという証明にもなるのかな。なるほど、織田作にはそういう山男的なところもあった。将棋の升田だの坂田などゝいう人も、殺風景なところで酒をあびるにふさわしい豪傑であるし、案外、拙者なども、そうかも知れんわ。ジャン/\横丁ごときには、てんで驚かないのだからね。イヤ、大阪出身、北海道の山奥みたいなところが、たしかに、あるね。ゴールド・ラッシュの夢をえがいて人がひしめいているのは、アラスカだの北海道の金鉱区にかぎったことではないのだね。大阪が一面そういう町なのだ。金鉱町はバラックであるが、大阪という町にも、表通りはとにか
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