を見てごらん。それは切ないでしょう。闇の中にあるべきものを照すべからず。それはワイセツのためではなくて、滑稽であり気の毒であるからです。白昼の光の下では、ワイセツを救うものは芸術なのさ。ストリップとても原理は同じですよ。
 計画停電は全国的なものであるから、ストリップ劇場のあるところ、全国すべて同じことが行われているに相違ない。しかしあの瞬間に半分お尻をだして必死に前と後を押えているのは大阪だけかも知れん。停電を見こしてこういう型、つまり危くズリ落ちそうなところで着物をおさえてくいとめる型を発明したとするなら、臨機の商才しかも必ずしもワイセツではなく、このへんは大阪商人の鬼才たるところであるかも知れん。

          ★

 こんどの大阪旅行は苦しかった。二月はじめに身体を悪くして仕事に支障をきたし、出発までに終るはずの小説新潮と別冊文藝春秋の二ツが残ってしまった。十二日の晩は徹夜だ。十三日の朝九時にとにかくオール読物だけを書き終り、小説新潮と別冊にはおことわりの電報をうって、上京、午後五時半から芥川賞の銓衡委員会。該当者なしときまって大そう早く会を終ったのはよろしいが、小説新潮の小林君が会場へ現れて、半分だけでよろしいから旅先で書いてくれ、同じ汽車でついて行きます、クビになりますから、というので、人をクビにするわけにはいかないから、仕方がない。別冊は別冊で、随筆的なものでよろしいから旅先でたのむ、という。随筆的なものでもよろしいなら、まア、この方はなんとかなりそうだが、小説新潮は連載の捕物帳だ。私はこの捕物帳で短篇探偵小説の新しい型をつくってみたいと思っていた。推理小説では短篇はムリである。西洋でも短篇推理小説で面白い読物はまずない。私は捕物帳に推理の要素と小説の要素を同時にとり入れて新しい型をつくってみたいと考えた。はじめは暗中模索であったがどうやら五回目ぐらいから、新しい型を自得するところがあった。したがって大いにハリキッている際であるから、やッつけ仕事はしたくないし、また、探偵小説というものはメンミツな構成がいるものだ。いっぺんちゃんと殺人事件をつくりあげて、それをひッくり返して書いて行くもの、したがって書くという仕事よりも構成する仕事の方に苦労を要する。構成ができれば一部分書くのも全部書くのも、大して相違はないのである。だから旅先では甚だ心もとなく
前へ 次へ
全26ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング