周したが、この時だけは参った。図体の大きな飛行機が窮屈そうに身をかしげて、甚しい緩速で旋回飛行をやるというのが無理なんだね。エレベーターの沈下するショックが間断なくつづき、今にも失速して落ちるかと思うこと頻りである。大阪まで一時間で飛ぶ飛行機が、わざわざ二十何分もかかって東京を二周したのだから。三分もたつと、みんな顔面蒼白となり、言葉を失ってノビたのである。この航空旅行ができることによって、私も日本地理を書くことになったが、したがって航空旅行ができるまでは、遠方を飛び歩くことができない。
元日の午前十時に丸ビルのノースウエスト航空会社へ集合することになっていた。伊東に住む私は前日から小石川の「モミヂ」に泊りこみ、増淵四段と碁をうって大晦日を送るという平穏風流な越年ぶり。
さて元旦九時半に出動する。このとき呆れたことには、元旦午前というものは、大東京に殆ど人影がないのだね。時々都内電車だけが仕方がねえやというようにゴットンゴットン走っているだけだ。さすがに犬は歩いているよ。後楽園の競輪場も野球場も人がいないし、省線電車の出入口にも人の動きが見当らないという深夜のような白昼風景。ところ
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