に嬉しいようであった。紀子ちゃん(殺した長女十歳)とはよくコーヒーを飲みに行き私によく甘えていた」
 犯行をごまかすためのウソだとだけ見るのは当らない。こういう表現のできる人間にはタイプがあるようだ。私を大事にしてくれるお父さんお母さん、などと時々涙ぐんで人々には語りながら、父や母をぶったり蹴ったりしている人間のタイプである。単純で、怒りっぽいが、涙もろくて妙に執念深いところもあるという凡庸なタイプ。それ自身は決して犯罪者のタイプではない。いくらでもザラにあるタイプだね。
 私は山口を異常性格とは見ないのである。山口の本質はオールマイティを失うまいとする不安と、自信のなさ、劣等感だという。(週刊朝日)しかし、それは万人にあることだろう。そして社交としての着物をかなぐりすてると、突然ヤケを起してケツをまくって居直る。それも万人にあることだ。山口の場合はそれがドギツクでているから異常性格の所以だというが、これまた事と次第によっては万人がやりかねないものを蔵していると私は思うのである。
 文士である私は、そのようにしか考えられないのである。ザラにあるタイプの人間がいきなりかかることを行うので
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