々しさ」を歌ひ初めてもいい時期だ。勇敢に屋根へ這ひ登れ! 竹竿を振り廻し給へ。観衆の涙に媚び給ふな。彼等から、それは芸術でない、ファースであると嘲笑されることを欣快とし給へ。しかしひねくれた道化者になり給ふな。寄席芸人の卑屈さを学び給ふな。わづかな衒学をふりかざして、「笑ふ君達を省みよ」と言ひ給ふな。見給へ。竹竿を振り廻す莫迦が、「汝等を見よ!」と叫んだとすれば、おかしいではないか。それは君自身をあさましくするだけである。すべからく「大人」にならうとする心を忘れ給へ。
 忘れな草の花を御存じ? あれは心を持たない。しかし或日、恋になやむ一人の麗人を慰めたことを御存じ?
 蛙飛び込む水の音を御存じ?



底本:「坂口安吾全集 01」筑摩書房
   1999(平成11)年5月20日初版第1刷発行
底本の親本:「青い馬 創刊号」岩波書店
   1931(昭和6)年5月1日発行
初出:「青い馬 創刊号」岩波書店
   1931(昭和6)年5月1日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2009年5月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング