さといふものが殆どないし、荒《すさ》み方もすくない。勿論荒みはあるけれども、娼家の娼婦の荒みと全然異るもので、インチキ・バアの女給よりも、無邪気であり、明るい。
その原因はたぶん住所がないといふこと、したがつて誰にも束縛されず、係累もない、青天井の下の自然児で、その土地でなければ営業ができないといふ性質のものではなく、至るところ青山あり、どこへ行つても開業できる、天地帰一といふ妙味をおのづから体得してゐる連中だから、おのづから高風あり、爽快な涼気もあるといふ次第だらう。
たいがい女学校を卒業した家出娘で、女学校の成績は中以上、できる方の娘が多い。家庭の事情で飛びだしたといふよりも、自由にあこがれ、たのしい人生をもとめて飛びだしたといふ方が本当で、家出の理由を家庭の事情に罪をきせるパンパン嬢は一人もない。そんな世を咒ふやうなヒネクレた考へはミヂンもなく、概ね明朗快活、自分勝手にとびだし、かうなつてゐるだけの、素直にして自然の体をそのまゝ存してゐるのである。だから、心は荒れてはをらず、無邪気である。無邪気といつても、人間は本来無邪気ではないから、人間並には無邪気ではないだけだ。
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