とも、私の会つた姐さんは別だ。もう三十五(通称三十)元々美人ぢやないところへ、やつれて、顔が物言ふ街の女のことで、明るいうち、顔のハッキリ見えるうちはショーバイにでられない、とこぼしてゐた。配下を十人以上に絶対にふやさないといふのも、この姐さんが自分の営業不振を怖れるせゐぢやないかと私には思はれたが、姐さんの配下にK子といふ美人がゐる。見たところ、いゝ家のお嬢さんみたいでパンパンのやうには見えないのだが、姐御がすゝめて結婚させた。むろん相手はナジミの客なのだが、姐御の親切が半分はあつても、自分の土地から美人のパンパンが減つてくれる方が自分に都合がいゝといふ目算も含まれてゐたんぢやないかと私には疑われた程であつた。尤もK子は一週間で古巣へ戻つてきた。
いつたい彼女らは結婚して一人の男に満足できるのだらうか、私のこの質問に、さあね、どうも御一統、自信がない様子で口ごもつたが、親分や姐御の話では、大部分は一人の亭主ぢやダメらしく、小部分はひどいヤキモチ焼で、亭主のそばヘクッついて放れなくなる。私の会つた結婚した女といふのは親分の乾分《こぶん》の一人と結婚したのだが、ヤキモチ焼で亭主にクッつき通して放したがらないから、
「ヤイ、この野郎、てめえがベタ/\クッつきやがつて放さないから、あの野郎の仕事の能率が上らなくつて仕様がねえや。ちつとは遠慮しろよ」
親分がかう冗談に叱りつけたら、
「イヽーダ」と言つて、逃げて行つた。
事務員になつて毎日横浜へつとめてゐる娘は、この娘だけ例外的に東京に父も母もキョウダイ五人そろつてゐる家があり、人の手前もあんなショーバイしてゐちや悪いと思つたから止めたのよと言つてゐたが、
「ヤイ、今だつて、会社の帰りに遊んでゐやがるんだらう」
「イヽーダ。知りもしないくせに」
「ヤア坊が言つてたぞ、横浜公園をフラ/\してゐやがつたさうぢやないか」
「あんな奴、知つてるもんか」
親分が冗談にひやかすのを、娘の方はムキになつてフンガイに及んでゐる。親分は彼女らが「稼ぐ」と言はずに「遊ぶ」といふ。親分はたしかに真相を看破してゐる。チェッ、この野郎、てめえ達、遊びたいから遊んでるんぢやねえか、結婚したいなんて嘘つきやがれ、結婚してみてえ、と云ふんだらう、やつぱり遊びぢやねえか、遊び放題に遊びやがつて女房がつとまるもんか、とひやかす。いゝぢやないの、たまには
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