。イス、テーブルをゴチャ/\並べるとか、なんとか、たとえばだ、スキマというものが広さを感じさせるのだから、スキマというスキマへクリスマスツリーみたいな植木鉢をつめこむ」
「ハア、ナルホド。では、関取、それをさっそく買ってきていたゞきましょう」
「この野郎、人を運送屋に見たてゝいやがる」
 などゝ言いながらも、姿のよい植木鉢を見立てゝ届けてくれたりするから、友達はありがたいものだ。けれども紺屋の一件があるから、いつ復讐されるか、オサオサ油断はできないのである。

 夢に見る面影、おお、そはあの人よ。はるかなるノスタルジヤの香気、又、はなやかなエキゾチシズム、雨は降る巷々、窓の灯に人の子の悲しみははじまる。白昼ひそやかな彷徨。その全てにあなたの心の影をうつす、なつかしの店よ。愴美なる知性も、失われし時間も、キェルケゴールの呻吟にはじまりし現代の痛苦も、おお、さては愉しきピエロよ。召しませ心のブルース。叡智と趣味高き人々の永遠のふるさとなる店、二〇・五世紀のささやきとアトモスフェアの店、その甘き風味の店、「さゝの枝」こそあなたの訪れを待つ。かそけくもこそ。

 これがシンちゃんの開店披露の印
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