私、すきなのよ」
「なぜ」
「私もラジオがきらいなのよ。あんなものをきくと、声楽家だの女優になりたくなるでしょう。これ、無意味なことであるわ。私、さびしくなるのよ」
千鳥波をジッと見上げて、そしてにわかに振向いて我が家へ駈けこんで行った。
「ウムム、畜生!」
千鳥波は、みちたりて、うなった。彼はついに、わが生涯の恋が、こゝにはじまりつゝあることを悟った。
それはそれが果してチャーミングでありしことを傲然とシン公にうそぶく幸福を考えて酔った。然し、思えば、シン公のあの文章も、わが胸の思いに思い当るところがあるような気がした。
底本:「坂口安吾全集 06」筑摩書房
1998(平成10)年7月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説と読物 第三巻第七号」桜菊書院
1948(昭和23)年7月1日発行
初出:「小説と読物 第三巻第七号」桜菊書院
1948(昭和23)年7月1日発行
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2007年7月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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