った刹那、千鳥波の手をくゞって、女の肢体がマリのようにはずんだ。
「ウムム」
 千鳥波の巨体が虚空をつかんで畳の上へはじかれて、のびている。ミゾオチにストレートをくらったのである。年来の牛飲馬食で、巨体のくせに胃のもろいこと話にならない。小娘の一撃だけでアッサリとノックアウトのていたらくである。
 ソプラノ嬢はハヤテの如く襲いかゝって、千鳥波の鼻、口、ホッペタのあたりをつかんで、肉をむしりあげる。それがすむと、アゴを狙ってアッパーカットをポンポンポンと五ツ六ツくらわせる。その構えと云い狙い、速力、その道の習練のほどを示している。
 ウムム、アウ、ウウ、と穏やかならぬ物音であるから、三人の旦那がのぞいてみると、これはしたり、ノビているのは巨人の方だ。よく見れば刃物でえぐられたようでもないから、割ってはいって、
「アレレ。前頭なんてえものも、引退すると、こんなものかね。どちらの姐御か知りませんが、とんだお見それ致しました。私どもは決してお手向い致しませんから、ごかんべん願います」
「ウムム、畜生、やりやがったな。このスパイの悪党女め」
「これこれ、失礼を言うものじゃない」
「いゝえ、姐御な
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