その中で描いている仏革命の段階だね。日本の民衆も悪かったんだ。農地解放をもっと利用すればよかったんだ。こいつは大革命だったんだがね、どうして日本人がその点に気づかなかったのかと思う。そしてそれを革命でなくしてしまったんだ。日本人の失敗だ。日本人は革命をやってもまだダメな国民なんだ。せいぜい暗殺ぐらいしか出来ない。農地解放という与えられた革命すらできないくらいの国民なんだ。それを、ボクは共産党の連中によく理解してもらいたいんだ。日本は今ようやくフランス革命の初め頃の段階なんだが、理性の点に於いてはまだフランス革命当時より低いんだ。
× × ×
探偵小説には政治が入ると面白くなくなるね。犯人が限定されるからね。大体、探偵小説は直接ぼくたち個人に身近なものに関係ある世界のもの、現世的なものなんだ。個人の色と慾、そんなものが中心になる。政治みたいに、さらにその上に一つのワクを置いたようなのでなく、だれでも、もし自分が殺されたらという身近な興味のものなんだ。だれでもオレが大臣になったら、と考えるより、オレが殺されたら、と云う方に切実な関心があるからね。政治が入ってくると身近なものがなくなるんだ……
今ボクは「復員殺人事件」と云うのを書いてるが、あれは気狂病院にいるとき考えた。登場人物は、前に書いた「不連続殺人事件」よりもすくなく、今迄以上は出てこない。型は両方似ているがね。今度も前と同じように、最後の一回前で中止して答案を募集するつもりだ。この前の「不連続殺人事件」では答案がたくさん来てね、読むのにウンザリしたが、ぼくひとりで全部読んだ。――この間大井広介から手紙が来てね、相変らずムチャ書いてるよ。彼は自分の推理があたれば、それは良い小説で、あたらないのは小説がわるいんだときめている。自分があたらなければ、それは探偵小説じゃない、と云うんだ。大井広介の論理とはそんなものだよ。[#地付き](文責在記者)
底本:「坂口安吾全集 08」筑摩書房
1998(平成10)年9月20日初版第1刷発行
底本の親本:「近代文学 第四巻第一一号」
1949(昭和24)年11月1日発行
初出:「近代文学 第四巻第一一号」
1949(昭和24)年11月1日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2009年1月26日作成
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