時でも、その悪党ぶり薄情ぶりに敬服し、私よりもはるかに偉いものだと思っていた。ヤス子には、あゝいう水際立った目ざましい特技はないが、そのあたりまえさ、あたりまえの高さ、凜々しさ、それは私の心をやすらかにして、そしてそれだけの何でもないことの中で、金竜のそれとは異質の、然しそれよりも一そうの目ざましい何かで、とびあがるほど私の心をしめつけることがあった。それは気品というものだろうか。私は自分が、下素なバカ者であることが、あさましくて、せつなかった。
私は自分が甘ったれているのだろうかと思った。自分が下素でバカ者だ、などゝは、甘ったれていることだ。けれども、私はそれで納得できるわけでもないのである。
私はいっそ衣子とのことを、ヤス子に白状しようかと思った。ヤス子に甘えているわけではないのである。そんなことで高まろうというわけでもない。要するに、何かしないといけないような気がし、圧倒されるからで、それ以外にどういうことでもないのである。
何か奉仕をしなければならぬ。私は夜毎、衣子を訪れるたびに、高価なオクリモノを忘れなかった。それも奉仕だ。衣子はそれを喜ぶ女だからである。けれども、ヤス
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