思っただけだ。
 この賭けは思いのほかに成功したらしい。なぜなら、ヤス子は私に手を握られて、ボンヤリしているからである。世の中のことは分らぬものだ。後日、ヤス子は私に言ったが、このときは、バカらしくなったのだそうだ。要するに、それだけであったが、なんだか、感動したということだ。
 私は、このバカバカしい成功を、信じていゝか、迷ったほどだ。そして私は信じるよりも、えゝ、どうせバカのついでだ、という居直り強盗の心境になった。
 私はそこで、すり寄って、ヤス子の肩をやわらかくだいて、静かに接吻した。ヤス子はボンヤリして、うつろな目をあいたまゝ、されるまゝになっていた。
「ヤス子さん。私の魂はあげて下僕、ドレイのマゴコロです。けれども、とにかく、邪念なく、マジリケなしに、マゴコロがすべてゞすよ。私はあなたを愛し、尊敬し、こよなく、祈るようにお慕いしています」
 とネンゴロに云って、次第にはげしくだきしめた。

          ★

 思いをとげるということは、ある意味では、むなしいことだ。けれども、私はそうは言わない。マゴコロのもえ育つ日という。私は愛する人が、いとしい。それは、私よりも、
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