とで、なぜなら私は金龍によって、金銭上の恩恵を蒙っており、金持ちの客に渡りをつけて、それからそれへ儲けの口を与えてくれるからであった。だから私は金銭上の奴隷として女王に仕えつゝあるうちに、おのずから恋愛の技法を発見するに至ったのであった。
私は一夜、お客をふって中ッ腹でもどってきた金龍の情けをうけて、夢の一夜を経験した。それは金龍に奉仕して四年目、私が二十八、金龍は二十七であった。
そして、奴隷、間夫《まぶ》という関係は、私が三十七の年まで、戦争で金龍が旦那と疎開するまで、つゞき、そして金龍は旦那と結婚して田舎へ落ちついて、もとより私のことなどは、忘れてしまった。
★
私がこの手記を書くのは、金龍の思い出のためではないのだ。私ももう四十を越した。私の一生は金龍によって変えられ宿命づけられたようなものであった。
私は二十六の年に平凡な結婚をして、今では三人の子供もある。私は然し、恋愛せずには生きられない。けれども、私にとって、気質的に近い女を手易く口説いてモノにするのは恋ではなく、私の情熱はそのような安直な肉体によって充たされることが、できなくなっていた。
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