。肉体というものは、まことに悲しいものなのである。美代子と種則には爾今《じこん》逢い見ることかなわぬ、などゝ厳しくオフレをだす衣子、大浦博士の魂胆を見ぬいておりながら、やっぱり、まだ二人のクサレ縁は切れずにいる。
 そこは大浦博士の巧者なところで、弟は疎んぜられ、己れの策は見ぬかれても、しらっぱくれて、からみついている。からみついている限りは、男を蔑み憎んでいても、女の方からクサレ縁を断ちきることは出来ないものだということを、ちゃんと知りぬいていらっしゃる。
 男の肉体にくらべれば、女の肉体はもっと悲しいものゝようだ。女の感覚は憎悪や軽蔑の通路を知るや極めて鋭く激しいもので、忽ちにして男のアラを底の底まで皮をはいで見破ってしまう。そして極点まで蔑み憎んでいるものだ。そのくせ、女の肉体の弱さは、その極点の憎悪や軽蔑を抱いたまゝ、泥沼のクサレ縁からわが身をどうすることもできないという悲しさである。
 大浦博士がわが社の慰安旅行の一行に加わりたいという。ヤス子に寄せる御執心のせいである。私はしらっぱくれて、意地悪くそれを匂わしてやった。私だって、腹も立ちます。これくらいバカ扱いに扱われては、
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