医局のツキアイをうまくやってボロのバレないうちは、患者にウケがいゝんですよ。まア、相当な、若手先生なんです。これも兄貴のおかげ、それに僕が要領を心得て、いかにも教授、先輩、同輩に好かれるように、立廻っているのです。これは、マア、僕の才能ですね。僕は人に怒られるようなことは、しないんですよ。ですけれど、この才能が物を言うのも、バックに兄貴の威光があるからで、これがなくちゃア、誤診ばっかりやらかしているものですから、本当は看護婦だって、肚の中じゃア、なめきっているわけですものね。だから、兄貴に見すてられちゃ、一気に看護婦にまで見捨てられちゃうでしょう。僕は一生、浮ぶ瀬がなくなるわけなんです」
数学、物理化学が丁、英語も丁、漢文と国語が丙、よくぞ申したり、アッパレな奴で、どんなに仏頂ヅラで怒っていても、たいがい腰がくだけてしまう。
衣子もさすがにウンザリして、完璧な低能なのね、とからかうと、えゝ、まア、生れつきですからねえ、と答えたそうで、色事のモメゴトのあげくの力演は、概してカケアイ漫才の要領になるものかも知れぬ。これは私も身に覚えのあるところである。
然し、衣子が種則をハッタと睨ん
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