、自分勝手で、そんな持参金を持ち出されては、病院の運営もできない。
「これは、あなた、サギですよ。まるで、男のツツモタセみたいなものだな。もちろん、種則も、兄貴の博士とグルですとも。よろしい。見ていてごらんなさい。私が泥を吐かせてみせます」
と、種則に来てもらい、衣子と私の面前にすえて、さて、大浦君、と、私が訊問にかゝろうとすると、にわかに衣子の様子が変って、当の敵は私であるかのよう、青白く冴えた面持、キッと私を見つめて、
「この話は当家の恥ですから、内輪だけで話し合いますから、三船さんは御ひきとり下さいね」
女中を呼びよせて、
「三船さんが、お帰りです」
有無を言わさず、宣告を下す。ここまで踏みつけられては、私もたゞは退《ひ》き下れぬ。
なるほど、私が種則をよんで泥を吐かせましょう、と持ちかけた時に、衣子はすゝんで賛成するようなところは無かったかも知れない。けれども、一言といえども反対の言葉は述べなかったのだから、そして、私が電話で種則を呼んでいるのを黙って見過していたのだから、これを賛成と見て怪しからぬところは有り得ない。
ところが、種則が現れる。とつぜんガラリと、こう、
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