のつもりで話しかけて、居直られるようなことになりがちだから、衣子はヤス子を煙たがり、親しみをいだいていなかった。
「ヤス子さんも、可愛げのない人ね。あんなに居直るみたいに談じこまれちゃ、旦那様もオチオチくつろげやしないわね」
と、衣子は私を意地悪くジロリと見て、言う。
「それは、あなた、話というものは、ピントが合わなきゃ、仕様がない。ヤス子さんは、奥さんとはピントが合わないかも知れないけれども、ピントの合う人にとっては、あんな可愛げのある御婦人もメッタにありゃしませんよ」
「三船さんはピントが合うつもり? でも、ヤス子さんは、ピントが合わなくて、お困りの御様子ね」
すると美代子のチンピラまでが、私にジロリと一べつをくれて、
「社長と社員でなかったら、おそばへ寄りつくこともできない筈ね。ヤミ屋の御時世よ。インフレの終ると共に、誰かさんの三日天下も終りを告げます」
恋は曲者《くせもの》である。あれほど崇拝の姉の君を、美代子も内々煙たがるようになっているのだ。けれども、それを意識せず、あげて私への侮蔑となって表れてくる。
ところが、この恋が、却々うまく行かないのだ。
大浦種則は美代
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