然し、君、社長と美人社員なら、先ず、そんなところだろう。なんにしても、本来、筋のよからぬ会社のことだからな」
「まア、まア、おやき遊ばすな。あなた方、病院内の生活はいざしらず、ヤミ屋の仁義は御婦人を手ごめに致さぬところにあるものです。かの御婦人は、我々の仁義を諒とせられて、目下、下情を御視察中のけなげなる美丈夫というものですよ」
「然し、思召《おぼしめ》しはあるだろう」
「それは、あなた、木石ならぬ我が身です」
「アッハッハ」
 大笑一番、ふと私に盃をさして、
「これは面白い。ヤミ屋にくらべると、私らはヤボかも知れん。君らが物質的である以上に、私らはフィジカルだからな。私は君の会社へ遊びに行くよ。夏川夫人に御交際を仰ぎにさ。よろしく頼むぜ。敗戦このかた身辺ラクバクたるもので、とんと麗人の友情に飢えているから、千里の道を遠しとせずさ」
「先生のような強敵が現れちゃア、これは困るな。御手やわらかに」
 と、私もウマを合せておいたが、よしよし、これ又、一つの展開である。すべて現れいでる新展開は、身にいかほど不利であろうとも、不利も亦《また》利用しうるもの、この心構えのあるところ、いかなる不利
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