自分の問題は自分の問題、人の問題は人の問題、これはハッキリ区別があって各々独立独歩のもの、事の真相に於てこの二つが交錯するというのはウソで、これは専ら心緒の浪漫的散歩に属するヨケイ物です。奥さんと大浦先生に属することは、これはもっぱら御二人だけの問題、美代子さんに気がねがあっては、却ってウソというものです」
衣子は大浦との秘密が私どもの目にさらされたということに腹を立てゝいるに相違ない。とりも直さず、その心では私に対して益々イコジにジロリズムに傾く一方である筈であるのに、
「ネエ、三船さん、なんだ、そんな女かとお思いなんでしょう」
こう言いながら、本来ならば、こゝでジロリのあるべきところを、あふれた色ッぽさで、クスリと私に流し目をくれた。私は思わずヒヤリとした。まったく私は心の凍る思いで、にわかに放心したほどである。
こんな時にどんな返事をしてよいのやら、まともな返事はバカみたいだし、はぐらかしてもバカみたいだし、私はまったくこうなると、幼稚園の生徒みたいで、
「だって、私は、惚れたハレタ、そのことしかほかに一生まともなことを知らないような奴ですもの、ようやくホットしたようなもの
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