だ。女房が亭主を罵倒しても、それにオツキアイをしてはいけない。夫婦はいつも夫婦であるということを、我々他人は心得ておかねばならないのである。こう言っておいて、
「そうですか。それでは、今夜一夜は、私のうちへ、ヤス子さんも一緒にお泊りになっては。むさくるしいところですが、うちの女房だけは自慢の女房で、まことに親切な女です」
ヤス子も考えたあげく賛成して私の家で一夜をあかしたが、私はこんな機会をねらって御婦人に言い寄るような、そんな便乗的な手法は用いない。そんなことをするぐらいなら、はじめから天地神明に誓いをたてやしないのである。
美代子の話をシサイにきゝたゞしてみると、しかし、その家出の原因は、決して美代子の述べる表面だけのものではない。私は思った。美代子はむしろ、まごゝろを面にあらわして罪を謝し、兄の縁談とは別に、自分一個の求婚を考慮してくれ、という種則に好意を感じているのである。そしてその好意を感じたということが、自己嫌悪の絶叫となり、その怒りが、家へ、母へ、大浦一家へ呪いとなって、激情のトリコとなっているのではないか。
ジロリの御婦人が二人まで私の住所へお泊り遊ばすなどゝは天
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