奴めが社長とくる。姉の君の御威光は大したもので、私に対しても、手の裏を返したように、フォックステリヤではなくなった。
美代子は縁談の相手の男、種則という婦人科医者が嫌いだという。然し私の見るところでは、種則が嫌いではなく、嫌いになろうとしているだけだ。彼女が嫌っているのは、この縁談のフンイキなのである。
少女のカンはたしかであるから、この縁談にからまるお家騒動的フンイキをかぎだして胸をいためているのである。
「実は私も、その話では、かねて大浦先生の依頼をうけて、美代子さんの御心労とはアベコベに、なんとかマトメてくれというお話があったんだよ。美代子さんのような可憐な小鳩を敵に廻しちゃ、私も地獄へ落ちなきゃならない。私も心を入れかえて、美代子さんの気持を第一番に尊重して、犬馬の労をつくしましょう」
こうマゴコロをヒレキする。するとチンピラ動物はとたんに喜んで、実は私は、別に好きな人があるのだなどゝ言いだした。こんな文句をまともにきくと、とんでもないことになる。
この病院に岩本という婦人科の医者がいた。まだ三十だが、手術は名手で、患者の評判が甚だよろしい。大酒飲みで、生一本の男である
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