、二十万はもうかる。じゃア買いましょう、ハイお手打ちということになる。話はハッキリしていまさア。縁談という奴は、ソレ家柄だ、合い性だ、そんなモヤモヤしたものは、ヤミ屋じゃ扱えないね。これがオメカケとくるてえと、合い性も家柄もありませんや、年齢も男前もないのだから、月々いくら、これはハッキリ、つまりヤミ屋の扱いものになるんだけど」
と益々シャッポをぬいでおく。実はこの縁談のカケヒキの方が、ヤミ屋の扱いよりも、もっと複雑な金銭勘定、例のお家騒動という含みの深い係争の根を蔵しているのである。こういう古来の家庭的な損得関係という奴は、ヤミ屋の取引には見かけないモヤモヤネチネチしたもので、たしかに私の気質に向かないことは事実である。
ところが甚だ奇妙なことが起ってしまった。
★
そのころ私の社に入社してきた婦人記者があった。陸軍大将の娘で、陸軍大尉と結婚して子供も一人ある二十六の夏川ヤス子という才媛だ。
夫は幼年学校、陸士育ちの生粋の軍人であるから、敗戦にヤブレカブレ、グウタラ、不キゲン、毎日腹を立てゝいる。ヤス子は女子大英文科出身の美貌と才気をうたわれた名題の女
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