は淋病をもらって、被害を蒙っているだけだ。こっちは、とにかく、誰からでもいゝさ。宿泊料だけ、もらえばいゝのさ」
 私はカンカン立腹して、立ち戻って、報告して、
「あんな悪党どもったら、ありゃしません。黙っている手はありません。これは、もう、ハッキリ訴訟を起して、慰藉料をとるべきです」
 すると、衣子の顔色が変った。
「なんですって、三船さん。あなたは美代子の恥を表向きにさせたいのですか」
「そんなバカな。然し、あなた、これだけナメられて、それでいゝのですか。種則はユスリだと云い、院長は美代子なんてパンパンじゃないか、というゴセンタクですよ。慰藉料だって請求できるんだとは、これは先刻、あなたの口からでた御意見ではありませんか」
 衣子はジロリと私を見た。
「慰藉料だって請求できる立場にあると申しましたが、慰藉料を請求すると私がいつ申しましたか。三船さん。あなたはワガママですよ。それに、なさることが卑劣ですよ。あなたのカケアイはなんですか。先方にユスリだのパンパンなどゝ言いくるめられて、ひき下ってきて、それはあなたの責任ではありませんか。御自分が勝つべきカケアイに言いくるめられて、そのハライセに、美代子の恥をさらさせてまで仇をとって、と、それはあなたが、ワガママ、卑劣ではありませんか」
「卑劣とは、何事ですか」
 私は立腹のあまり、思わず叫んだ。
 衣子は然し、冷然として、最もつめたくジロリと一ベツをくれた。そこには、怒りと憎しみが燃えたっていた。
「三船さん。卑劣とは、あなたという人、そっくり、それのことですよ。当然理のあるカケアイに、ユスリなどゝ言いがゝりをつけられるのも、あなたの人柄のせい、あなたの性根のせい、あなたがユスリのような人で、大方、ユスリでもするように談じこんだのでしょう。恥さらしではありませんか。当家の名誉はどうなるのです。まして、美代子がパンパンなどゝ、そのような無礼なことを、あなたという人が相手であればこそ、あなたが下品、粗野、無教養、礼儀知らず、卑劣であればこそ、言われるのです。美代子のような娘をパンパンなどゝ辱しめられるのも、あなたのせい、あなたの柄の悪さのために、当家の娘がパンパンなどゝ」
 衣子は血の気を失って、目は宙に吊り、うわずって、言葉をのんだが、私の怒りは、血が逆流し、コメカミの青筋が激痛をともなってフクレあがり、目がくらんだ。

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