をしていた。病院の宿泊代を払わなくても済むからと、彼はむしろ喜んでいたのだ。種則は、金がつきたので、美代子に命じて、再び家から金目の物を持ち運ばせる手筈であったが、美代子が病気になったので、追い返してしまったのである。
泊っていた病院から、種則のもとへ宿泊料のサイソクが行った。種則は支払うことができないから、美代子に手紙を届けさせて、宿泊料はそっちで支払え、美代子は院長と関係があるのだから、宿泊料の始末は美代子がつける責任がある、という言い分である。食費がはいっているから、この金額は二万七千円になっている。
美代子はまだ病床についていた。家人には手紙を隠していたのだが、病院からサイソクがきて、バレてしまった。
衣子は私をよんで、大浦家へ行って、この始末をつけてくるように、なんなら、こっちから慰藉料請求の訴訟ぐらい起してもいいのだから、というキツイ御命令である。
そこで私は大浦家を訪れて、
「あなた方御兄弟もミミッチイ悪党じゃありませんか。こんな宿泊料を小娘に押しつけようなんて、ケチもいゝけれど、あんまりミミッチイ話じゃありませんか。第一、ヤブヘビですよ。慰藉料請求というような訴訟を起されたら、どうなさる」
種則は平然と苦笑して、
「君は、いったい、ユスリ屋かい。どこに僕の支払いの責任があるんだ。美代子は僕に隠れて院長とできているのだ。僕は裏切られているのだぜ。慰藉料を請求するんだったら、院長のところへ行くがいゝさ。それで宿泊料を帳消しにするのがよかろうよ。とっとゝ、帰りたまえ。変なユスリ方をすると、タメにならないよ」
と云って、ヨタ者みたいなセセラ笑いをしている。私は全く腹を立てた。
「よろしい。只今の言葉をお忘れなさるな」
私はその足で、二人の泊った病院へ行き院長に会い、
「さて、先生、私は富田病院から来た者ですが、大浦種則なる先生が、この病院の宿泊料二万七千円、これを美代子に支払いの義務があると云ってきました。その理由は、あなたと美代子に関係があるから、と、こういう次第です。関係のことはともかくとして、美代子の方に支払いの責任ありとは思われませんから、当方の意志をこちらへお伝えに参りました。宿泊料の請求は大浦種則にお願いします」
院長は顔色ひとつ変えず、苦々しげに皺をよせて、
「なに、関係? なにを云っとる。パンパンみたいなものじゃないか。こっち
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