曜日、車親分が社へくるというから、それを待つことにして、二十万円は、見る見る借金を払い消え失せてしまったのである。

          ★

 金曜日に、車氏は自家用車を横づけに、秘書をしたがえて、現れた。秘書の肩幅は、一メートルぐらいあった。
 社長の先生と握手して、
「御高名はうけたまわっております」
 と、如才のないこと云って、ズカ/\と奥へすゝんで、社長の椅子へドカンと腰かけたが、ヒョイと立って、
「そうだ。紹介していたゞきましょう」
「こちらは、車組社長、車善八氏です」
 と、花田が一同に披露した。
「フム。その隅、しッかり、こっちを、向かんか。動作が、いかんぞ。ハキハキせんか。貴様ら、なッとらんぞ。仕事は遊びじゃないんだ。貴様ら、女優の海水着写真をうつす時だけ、六人も揃って行くそうじゃないか。何たることだ。女優の座談会にも、六人そろって行ったそうだな。ヒイ、フウ、ミイ、……アレ、アレ、六人、編輯の全員じゃないか。何たることだ。オイ、何たることだ」
「ワーッ。弱った。これは、こまった。それは、その、そういう意味じゃないんで、それは、その、あの、茶のみ話に、ただ、つまり、ゴシ
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