、社長の先生も、全然、怠け者のようであった。
 冬は机の下へ電気コンロをおき、そこへ足をのばし、両手をクビの後へくんで、一日天井をボンヤリ見ている。春暖の候となるや、靴をぬぎ、両足を机の上へつきのばして、両手をクビの後にくんで、ボンヤリ天井をにらんでいる。夏になると、靴下もぬぎ、机の上へカナダライに水をいれて、その中へ足を突ッこんで、両手を後クビにくんで、天井をにらんでいる。
 頃しも、春であった。机へ乗っけた社長の先生の両足にならんで、二十万円の現金がつみ重ねられている。花田の顔は、泣きだしそうに見えた。たゞ今、帝銀で、かせいで来ました、というようであった。それ以外に、どう考えれば、こんな奇蹟がありうるのか。
 社長の先生も、あきらめきった顔をして、泥亀の要領で、足を机の下へひっこめた。
「もらったんです。つまり、くれたんですな」
 と、花田は、切ない顔つきで、逐一事情を説明した。
「なぜ、くれたんだ」
「それが、その、わからねえや。つまり、くれたんですな。オトコ、か、ねえ」
「フーム。オトコ。そうか。オトコ、か。わかった」
 と、叫んだが、わかったような顔ではない。
 ともかく、金
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