ない。オレ、行くことにしようかな。心細くなっちゃったな」
と、二人は肩幅一メートル氏に案内されて、車組社長を訪ねて行った。
★
「私がフツツカで、双方の意志を通すことができませず、拝借の二十万円は、使い果してしまいました。すべて、私の責任ですから、社で切腹をと考えましたが、切腹しても、二十万円のカタがつくわけではありませんから、お詫びに参上致しました。二十万円の代り、突くなり、斬るなり、お気のすむように、存分にやって下さい」
と云って、花田一郎は、目をとじた。
小心者で、ちょッと針で突かれても、アッチッチと悲鳴をあげる弱虫であった。然し、彼は、まったく、覚悟をきめたのである。
悲愴な覚悟だ。
全然余裕がないから、覚悟はヒタムキで、正座して目をとじた姿には、迫力があった。斬られるのは、痛い、苦しいと語っている。然し、それでも、死なねばならぬと観念している。見方によれば、滑稽でもあった。
国際使節は、花田一郎の覚悟のほどが、はかりかねて、土井片彦にギロリと一睨み、
「お前もか」
「違うよ。冗談じゃないよ」
片彦は、大いに慌てた。
「オレは来たくなかった
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