、能なしロクでなしの宿六をこづき廻したりするけれども、口笛ふいて林野をヒラヒラ、小川にくしけづり、流れに足をひたして俗念なきていである。
さういふ素質の片鱗があることによつて、庄吉がさう書き、さう書かれることによつて女房が自然にさうなり、自然にさうなるから、益々さう書く。書く方には限度がないが、現実の人間には限度があるから、そんなに書いたつてもうだめといふ一線に至つて悲劇が起る。
思ふに後の作品も限度に達した。かうなつて欲しいといふ願望の作風が頂点に達し或ひは底をつき、現実とのギャップを支へることができなくなつたから、彼には芸術上の転機が必要となり、自らカラを突き破り、その作品の基底に於て現実と同じ地盤に立ち戻り立ち直ることが必要となつた。然しそれが難なく行ひ得るものならば芸術家に悲劇といふものはないのである。
★
庄吉の作品では一升ビンなど現れず概ね四斗樽が現れて酒宴に及んでゐるから文壇随一のノンダクレの如く通つてゐたが、彼は類例なく酒に弱い男であつた。
元々彼はヒヨワな体質だから豪快な酒量など有る由もないが、その上、彼は酒まで神経に左右され、相手の方
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