駈けつけるわ。真夜中に叩き起して下すつてもよろしいわ。今日はお名残りの宴会やりませう」
「でも、もう、汽車にのらなきやいけないから」
「あら、小田原ぐらゐ、何時の汽車でもよろしいぢやないの。ぢやア先生お料理はありませんけどお酒はありますから、ちよつと飲んでらして」
「暗くならないうちに着かなきやいけないから」
「あら御自分のうちのくせに。ねえ奥様。そんなに邪険になさるなんて、ひどいわ。奥様、一時間ぐらゐ、よろしいでせう。先生をおかりしてよ。奥様は荷物の整理やらなさるのでせう。ほんとに先生たら、水くさい方ね」
庄吉はマダムの部屋へ招じられて、もてなしをうける。荷物の整理などもうできてるから残念無念の一時間、
「もう時間だわ、行きませう」
「あら、今、料理がとゞいたばかりよ、これからよ、ねえ、先生」
その言葉に目もくれず、もうマッカ、酔眼モーローたる宿六の腕をつかんで、
「さ、行きませうよ」
「お前も一パイのめ」
「ほら、ごらんなさい。そんなになさると嫌はれてよ。ヤボテンねえ、先生」
「ヤボテンだつて、オセッカイよ。あなたは何よ、芸者あがりのオメカケぢやないの。私は女房よ」
変つたと
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