オモチャ箱
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)三枝《さえぐさ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)重々|左《さ》もあるべき
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)だん/\
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およそ芸ごとには、その芸に生きる以外に手のない人間といふものがあるものだ。碁将棋などは十四五で初段になる、特別天分を要するものだから、その道では天来の才能に恵まれてゐるが、外のことをやらせると国民学校の子供よりも役に立たない、まるで白痴のやうな人があつたりする。然しかういふ特殊な畸形児はせゐぜゐ四五段ぐらゐでとまるやうで、名人上手となるほどの人は他の道についても凡庸ならぬ一家の識見があるやうである。
文学の場合にも、時にかういふ作家が現れる。一般世間では芸ごとの世界に迷信的な偏見があつて、芸人芸術家はみんなそれぞれ一種の気違ひだといふやうに考へたがるものであるが、それは仕事の性質として時間正しく規則的といふ風には行かないけれども、仕事の性質が不規則だ、夜仕事して昼間ねてゐる、それだから気違ひだといふ筈もない。
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