そういうことを云ったのであります。
 すると、これを聞いたザヴィエルのほうは、非常にびっくり致しました。日本の坊主というものは、苦行の最中にも、宇宙とか神とか真理とかいうようなもののことは一寸も考えずに、瞑想の間にあってお金のことや料理のことを考えているのである、というようなことを直ぐに本国へそのまま報告した、ということが記録に載せられております。
 また或る時に、ザヴィエルがニンジに向いまして、
「貴方は一体、年齢が若い頃がよろしかったか、年をとってからのほうがよろしいか?」
 ということを聞いたことがあります。
 ニンジはそれに答えまして、
「いや、若い時のほうがよかったですね。若い時には元気があるし好きなことも出来たりするし……」
 と云いました。
 こういった問答があったのでありますが、ザヴィエルは続いてこんな質問をしているのであります。――
「それではですね。今、一人の船乗りが船に乗って、Aの港からBの港へ行こうとしているとする。そういう時に、彼が元気に任せて荒海へ乗り出して暴風にもまれて行くのがよいか、それとも何処かの港へまず近寄り、そこで段々に港から港へと伝わって行くほう
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