という青年は、いろいろな点から調べてみましても、どうも、その判《は》っきりした身分とか身許とかが、分らぬのであります。明確なところが少いのであります。ポルトガルの商人と親しい人間であったことは確からしいのでありますけれども、ザヴィエルがニッポンの事情について種々と聴きました時にも、宗教のことなどについては、まるで何も知らなかったのであります。従ってニッポンの仏教についてなども何も知らない、無知そのものでありましたので、ザヴィエルが非常にがっかりしたということが、ザヴィエル自身の書簡のなかに書かれておるのであります。ところで、問題がひとたび貿易に関係して参りますと、この弥次郎が実に正確な知識を持っているのであります。このことから判断してみまして、彼が多分商人の出であったろうということが分るのであります。年は三十五、六歳であったということであります。
 思うにこの人物は、非常に世慣れた遊び人でありまして、いろいろと変った境遇に順応することの出来る処世の術を、かなりよく心得ておったのだろうと思うのであります。ですから、郷に入ったら郷に従えというわけで、ザヴィエルに会いますと、彼はこの教父に順
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