ります。彼は弥次郎を、インドのゴアという所にあるキリスト教の学校へやって勉強をさせたのでありましたが、弥次郎はもともとポルトガル人の友だちを持っていましたし、ゴアへ参りましても、普通のニッポン人にくらべますと驚くべきほど早く、たちまちにしてポルトガル語が上達いたしました。また、キリスト教の趣意を理解することにおきましても、長足の進歩をしたのでありまして、そのゴアの学校でも並ぶ者のないほどの、最高の学者になったのであります。
 こんな具合ですから、ザヴィエルは、弥次郎に対して絶大な信頼をよせていたのでありますが、どうも併しこのことの為に、今日になりましてもニッポンの歴史家たちは――主としてキリスト教の歴史を書いておる歴史家のことを云うのでありますが、そして大体に於てはキリスト教徒のほうが多かったのでありますけれども――ザヴィエルを、この上もなく信頼しておりましたので、ザヴィエルの説をもそのままに呑み込むことが多く、弥次郎の人格をもまた非常に高く買っておるようでありますけれども、われわれ文学にたずさわっております者の眼から見ますと、どうも、そういう風には思えないのであります。
 この弥次郎
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