寛大であるから、暴言などは許して下さるものだろう、とアベコベな風に考えていたのである。
私は帝銀事件の犯人が怖い。青酸カリをのんでバタバタ倒れる人々を冷然と見ている姿を考えると、いさゝかゾッとするのであるが、火事です、消防署へ、という電話をうけて、スト中だからダメです、とスイッチをきったという交換嬢の姿を考えると、帝銀の犯人よりも、もっと怖ろしくてもっとビリビリふるえあがってしまうのである。だから私は、満場一致女先生の退職勧告を決議したという先生方の怖れおのゝく気持にはいさゝか同情をもつのである。
馬鹿殿様観念論
京大生が共学の女学生に心中をせまって拒絶され、メッタギリに刺殺したという事件が起った。新聞紙は概ね共学による新問題として執りあげているが、所詮男女のあるところ恋愛は自然のことであり、恋愛をたゞちに不義とみる日本古来の思想が正理でない限りは、恋愛事件が共学に影響をもたらすことは有り得ない。問題は加害者の恋愛態度だ。
朝日新聞の報ずるところによると、加害者はその動機を、唯物論と観念論にまよい、救いを八重子との恋愛にもとめたが、幻滅を感じ、八重子を殺すことによっ
前へ
次へ
全39ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング