健全でないこともない。狭量ではあっても、不健全ではないようである。
 私は私の精神を、医師や薬品にゆだねたことが失敗であった。意志にゆだぬべきであったのである。
 隣室では、檀君も徹夜の仕事をかたづけて、待っていた編輯者が、いま帰って行くところである。昨夜おそく、女房が東京から「にっぽん物語」の未定稿を持って帰ってきた。私は常に両の眼があかなくなるまで、この作品を書きつゞけるつもりである。私はもはや、いさゝかも不眠を怖れてはいない。

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附記 本稿はもと別の雑誌に掲載の予定であったが、あまり多く「にっぽん物語」について語りすぎたので、群像へ廻すことにした。つまり群像は、十一月号から、私が「にっぽん物語」の続稿を掲載する筈の雑誌なのである。したがって、「まえがき」の部分で、某誌とあるのは、実は「群像」自体をさすことになるのであるが、私は故意に訂正しないことにした。
 この小文が、私の一生の記念的な転機となってくれゝば幸いであるが、私はそれを信じて疑わないものである。尚、続稿掲載に当っては、「にっぽん物語」の題名を変更するつもりであるが、今のところは、適当な題が見当ら
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