。彼の説によると、坂口安吾ごときは自分の何倍かの原稿料を貰っているから、温泉などで小説が書ける。自分はそうはいかないから、自分の書斎が必要である。そういう説であったそうだ。ところが、その後、檀君を通じて私と知るようになり、私の貧乏ぶりを目のあたり見て前説をひるがえしたらしい。坂口安吾にも家を建てさせなければならぬ、そこで檀一雄を説いて、私に家をつくらせるようにしたのだそうだ。なるほど、真鍋呉夫に家が建つ以上、私に建たない筈は有り得ない。私はこの奇蹟を信じたのである。そして檀一雄に説服された。
檀一雄は大工を一人雇っている。まだ十八だが、腕は良く、月給は一万円だそうだ。この少年大工は全力で働いても一ヶ月七万か八万円の材木しかこなせない。七万八万は多すぎるので、二万三万ずつ頼んでおくと、いつか自然に家が建ち、塀がつくられ、門まで出来てしまうそうだ。
この話を尾崎士郎にきかせると、空想部落の作者は、この現実の奇蹟に驚嘆して舌をまいた。
「その真鍋君という人は偉いねえ。それは、檀一雄には、家ぐらい建つだろうよ。オレは真鍋君なんて、名前も知らなかったからね。栄養失調になってね。フーム。温泉に
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