週間に四キロふとったのは温灸のせいだろうか、と私は考えたのである。
伊東へ来て、一週間。七日のうちに、色々なことを、めまぐるしく、やった。しかし、どれとして、ふとるようなことはしていない。即席の効能としては、痩せる性質のことが主であった。
★
私は伊東へ来るようになったソモソモのことを明確には心得ていないのである。数日のことが、明確には、思いだせないのである。私は又、催眠薬をのむようになっていたのかも知れない。
覚えているのは、伊東行きのきまった前夜、蒲田の南雲さん(井伏鱒二の「本日休診」の主人公三雲博士)この人は産婦人科医で警察医だが、何の病気に拘らず、私の家の全員がお世話になるお医者さんなのである。それから、長畑さん(柿沼内科医局長。私とは年来の知友である)この御二人のお医者さんが見えていられたこと、これが第一の不思議である。偶然だとは思われない。
私に伊東行きをすゝめたのは南雲さんであった。南雲さんは伊東に親戚の旅館もあり、二人の坊ちゃんが間借りの避暑にきていた。この間借りをたゝんで帰るために伊東へ行くから、一しょに行かないか、しばらく転地して保養
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