馳走がない。主人が菜食へであり粗食だからだ。
二ヶ月前に血を吐いてからは、一ヶ月間酒をやめた。同時に、かたい御飯をやめた。もっぱらオジヤ。まれに、パン、ソバ、ウドンである。そして、酒は再びのみはじめたが、御飯は本当にやめてしまった。それで一向に痩せないのである。朝晩二度のオジヤもごく小量で、御飯の一膳に足りない程度であるし、パンなら四半斤、ソバはザル一ツ、あるいはナベヤキ一ツ。それで一向に痩せない。間食は完全にやらない。ミルクもコーヒーものまない。
そこで私は考えた。毎晩のむ酒のせいもあるかも知れぬが(寝酒は三合、それに時として黒ビール一本追加)オジヤの栄養価が豊富なのだろう、と。そこで、病人の御参考になるかも知れないから、小生工夫のオジヤを御披露に及ぶことにします。このオジヤの工夫以前はチャンコ鍋やチリ鍋のあとの汁でオジヤを作っていたが、これを連用して連日の主食とするには決して美味ではない。すくなくとも、毎日たべて飽きがこないという微妙なものではないのである。なんといっても、一番微妙な汁といえば、スープであるから、それを用いてオジヤを作らせてみた。そして、二三度注文をだし手を加え
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