の汁だけでオジヤをつくって、それだけを愛用するようになった。スキヤキにしても、肉は人に食ってもらって、ゴハンに汁だけかけて食う。肉の固形したものを自然に欲しくなくなったのである。魚肉もめったに食べない。稀にウナギを食う。一ヶ月に一度、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の|丸焙り《ロチ》の足の一本だけ食う。又、稀に肉マンジュウを食う。この二年間、肉食といえば、それぐらいだ。ロチを一ヶ月に一度食うというのは、私の誕生日は十月二十日であるが、女房はそれを二度忘れていた。むろん私は忘れている。で、女房思えらく、毎月二十日にロチを食わせておけば亭主の誕生日を思いだすにも当らないや、というわけで、そこで※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]屋に予約してあるから、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]屋は毎月ヒナ※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]を丸々とふとらせ、二十日になると届けてくれる。女房は忘れているが、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]屋は忘れることがない、という次第で、したがって、わが家の客人は毎月二十日にくるのが一番割がいいのである。そのほかの日は甚しく御
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