レツする原子バクダンぐらい素敵な美はないだろう。あの頃でも自分をバクゲキにくる敵の飛行機が一番美しく見えた。そして、その美を見ることができた代りに死ななければならないということは、たいしたことじゃアないのさ。人を殺すのが戦争じゃないか。戦争とは人を殺すことなんだ。
こんな戦争をさせるヤツは何ヤツなのだろう? 勝たずば生きて帰らじと……というような歌を戦争の時もオリンピックの時もとかく歌いたがる日本人だが、戦争が好きだという日本人が決してタクサンいるわけではなかろう。けれども権力に無抵抗主義の日本人は近づく戦争にも無抵抗で、戦争も一ツの天災だというようにバクゼンと諦めきっているのかも知れない。そして、天災に襲われ叩きのめされてもたじろがず、ツルハシやクワを握って立ち上り立ち向う根気をこの上もない美徳と考えているのかも知れないな。また、天災にそなえて非常米を備蓄するのと同じように軍備というものを考えているのかも知れない。しかし戦争は天災ではないのだから、努力や工夫や良識によってそれを避けることもできるし、非常米のように軍隊をたくわえておく必要が不可欠のものでは決してない。
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